大学政策についての分析

私たちの大学政策についての分析です。私たちの分析を読んでいただくことで、なぜいま学生たちがこのような組織をつくり、大学と交渉していく必要があると考えているのかを理解していただくことができると思います。

1.国立大学法人化以降の大学改革の概要

〇法人化とはなにか

 国立大学は2004年の法人化を機に数多くの改革が行われ、大学を取り巻く状況は現在も大きく変化しつつある。法人化とは、大学に法人格を付与することである。これによって、各大学は自立性・独立性を確保することができ、人事や財務をめぐる裁量の余地を拡大し、特色ある研究・教育を実現することができるという触れ込みであった。また、「ステークホルダー(利害関係者)」という経営学由来の概念が導入され、学生とその「保護者」はもとより、卒業生、寄付者、共同研究を進める企業、国や地方自治体、地域住民など多様なステークホルダーに対して説明責任を果たすことの重要性が強調された。しかし、国立大学法人化は当初掲げられたような「地域社会とは開かれた大学」という理念に逆行し、大学の自律性は大きく低下した。以下では国立大学法人化以降の問題点を示していく。

〇運営交付金の削減

 国立大学法人化後、政府は法案審議時の「運営交付金は維持する」という答弁を覆し、ほかの独立行政法人同様に運営交付金の減額に踏み切った。これによって国立大学の運営の基盤となる運営交付金が年間1パーセントずつ削減され、「経営重視」の観点から大学業務の民間への外注化、人件費の削減が進んだ。

 運営交付金の削減によって、学内の設備などに拠出できる資金が減少し、建物の更新や建造が進まないということが問題視されている。京都大学をはじめ、全国の大学で保健室や診療所の閉鎖も相次ぎ、学内の設備更新のためのクラウドファンディングがおこなわれるようになった。

 さらに、運営交付金削減の影響として、助教や准教授のようなポストが(最近では教授のポストさえ)削られる、ないしは任期付きのものとなってしまうことで文系や基礎科学などの分野を中心に研究・教育環境が著しく悪化してきたことが報告されている。また競争的研究資金を得るため、あるいは任期付きの若手研究者がポストを得るために近視眼的な論文ばかりを執筆していることが指摘されており、日本の研究力低下は大きな問題になりつつある。

〇ガバナンス体制

 法人化以後の大学ではガバナンス体制(大学の意思決定と業務遂行のプロセス総体)が大きく変化した。とりわけ注目すべきは学長(総長)任命のプロセスとその権限である。法人化以前の国立大学では全教職員による投票の結果に基づいて、評議会(教授会選出の評議員や学部長などによって構成される最高意思決定機関)が学長を指名していた。この学長任命とそのプロセスは大学自治を象徴する慣行であったが、法人化以降にこのプロセスが廃止された(東北大学ではほかの大学よりもかなり早く2006年を最後に投票は行われていない)。

 学長を投票によって選ぶというのは教育公務員特例法に基づいており、これは戦時下における大学への政治介入への反省から、学長の選考は学内合議体の議によってのみ基づくということを制度化した。しかし、法人化に伴って大学職員が非公務員化されたためにこの縛りは効力を失った。これに伴い、国立大学のガバナンス体制は大きく改造されていくことになる。

 まず、従来の評議会は「教育研究評議会」と名称を変えて権限が縮小された。一方で、学長と学長の指名した理事が役員会を構成し、新たに半数を学外者とする経営協議会を設けた。そのうえで、学長の選考は教育研究評議会が選出した「学内委員」と経営協議会の選出した「学外委員」の同数から構成される学長選考会議がおこなうこととなった。

 このガバナンス体制の問題点は学長選考会議を構成する経営協議会と教育研究評議会がすべて学長によって指名されることにある。学長の任命/再任がすべて学長の選んだ人物によって指名されるという仕組みが、とりわけ地方大学において学長による大学の「私物化」と言うべき事態を引き起こしてきた。また、意向投票の廃止や部局長を学長が直接指名する流れが広がる中で、これまでの大学にあった教職員や学生による「下から」の意見表明の機能が失われ、ガバナンスの担い手と現場の分断が拡大してきた。また、国政のような分権化のシステムもなく、経営的な概念を重視しながらも株主総会のようなシステムもないため、学長が暴走した際に歯止めが利かなくなることが問題として報告されている(例:下関市立大学問題)。

〇ステークホルダーの限定化

 独立行政法人化によって目指された「開かれた大学」は、経営協議会における学外委委員や理事において、官僚の天下りや財界関係者が大きな発言力を持つようになったことで、そこへの説明ばかりが重要視され、学内への説明はむしろ限定的になってしまった。東北大学でも国際卓越研究大学への応募に際して学生への説明がなかったことが象徴しているように、大学運営において学生の声が軽視されるような傾向が続いている。大学の運営は多数の理事を中心として官僚的に遂行されるようになりつつあり、大学の掲げる中期目標の「効率的遂行」を重視してステークホルダーの声はむしろ反映されにくくなった。大学は地域社会に開かれたものとなるどころか、当初の触れ込みとは逆の方向に進んだとすら言えよう。

〇運営交付金の削減

 国立大学の運営の基盤となる運営交付金は年間およそ1%ずつ削減されており、大学間の競争によって獲得しなければならない資金の比重が増加し続けている。これによって、大学が資金獲得のために文科省方針に追従・忖度しなければいけない状況が生まれており、大学の自律性はむしろ低下するところとなった。

 また、文部科学省の意向に従わない大学の運営交付金を削減するという露骨な事例が発生したことによって、文部科学省の意向に従う学長ばかりが選ばれ、学問の自由を保障するための「大学の自治」という制度は一連の大学改革によって実質的に無効化されてしまった。

 運営交付金が削減されたことは、学生寮をはじめとする福利厚生のための予算の獲得を困難にした。また、一連の改革によって学生の自治、大学の自治という概念それ自体が大学において希薄になってしまった。

第3項 岸田政権以来の大学改革

 2021年10月に発足した岸田政権が掲げる「新しい資本主義」において大学改革が特に重要な項目として設定され、実際「国際卓越研究大学制度」「10兆円の大学ファンド」「改正国立大学法人法」など多くの改革が急速に進められてきた。このような速度での改革は過去に例がなく、大学に関する議論は当事者の議論を置き去りにして進み始めている。

〇国際卓越研究大学制度

 2020年12月に菅内閣によって10兆円の大学ファンドの創設が閣議決定された。これは、日本の経済の低迷を打破するために、大学に大規模な資金を投入し、イノベーションを促進することが目的である。この10兆円ファンドの運用益は年間数百億円が見込まれ、各大学が提出した体制強化計画に基づき、支援対象となる大学が決定される。そして2022年5月に国際卓越研究大学制度は国会において承認された。ここでは、ファンドの支援対象となる大学は「国際卓越研究大学」となり、年間3%の事業成長、学外者が半数を占める合議体の設置が求められる。

 これは一部の大学にのみ資金を集中させるという「選択と集中」路線のさらなる強化であること、学外委員が過半数を占める合議体が大学の運営のトップとなることで大学の自治が失われること、そして年間3%の事業成長のために福利厚生や文系学問、基礎科学などの「不採算部門」が削られることが懸念されている。

 また、2024年4月には、設置される合議体において学外委員が大学が提出する中期計画に対して拒否権を発動できるようにするという政府方針が示された。これによって、学外者が大学の運営について絶対的な力を有し、大学自治が無効化されてしまうことが懸念されている。

〇改正国立大学法人法

 2023年12月14日に改正国立大学法人法が参議院本会議で可決・成立した。これにより、理事が7人以上で収入や収容定員などが特に大きい法人は「特定国立大学法人」に指定され、「運営方針会議」の設置を義務付けられることとなった。その対象は東京大・京都大・東北大・大阪大・名古屋大と岐阜大を運営する東海国立大学機構の5法人である。

 「運営方針会議」は学外有識者を含む3人以上の委員と学長で構成され、中期計画や予算・決算などを策定する。また、大学運営の監督もするほか、学長の選考や解任に関して「学長選考・監察会議」に意見することが可能となった。 同会議の委員は文科相の承認を得て学長によって任命される。加えて、同改正法には東京工業大と東京医科歯科大を統合して24年10月1日に「東京科学大」とすることも盛り込まれた。

 同「改正案」により、「運営方針会議」委員は文部科学省の承認が必要であるとされ、大学運営が「運営方針会議」の決定に基づいていないと判断されれば、学長へ改善措置を要求するものとなっている。さらに学長選考に対し「意見を述べる」ことが規定されている。これによって、学長および文科省がますます大学経営に直接的影響力を及ぼすことができるようになることが危惧される。

 国立大学は2004年の独立行政法人化以来、数多くの改革が行われ、大学を取り巻く状況は大きく変化してきた。その結果として大学の自律性の低下、そして日本国憲法第23条の学問の自由が脅かされてきたことは言うまでもない。こうした状況のもとで成立した同法案により、学長の選考すら外部の影響を受けることとなり、大学の自治ひいては学問の自由そのものが消滅の危機に瀕することとなった。

2.国際卓越研究大学制度とその概要

【1】国際卓越研究大学制度はなんのために制定されたのか

 国際卓越研究大学制度の成立経緯について調べると、第二次安倍政権における「産業競争力会議」(参加者は竹中平蔵、科学技術振興機構理事長[JST]の橋本和仁、三木谷浩史、経団連会長の榊原定征など)に行きつく。これはアベノミクスの3本の矢(①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略)のうちの③について議論するための会議です。ここで、文科大臣であった下村博文は「世界大学ランキングtop100に日本から10校を」と発言するとともに「産業力強化のための国立大学改革」方針を示し、それが引き継がれてJSTに10兆円ファンドを創設するためのJST法改正が2021年1月の参院本会議で可決された。

 そして、2021年10月に岸田政権が発足すると「新しい資本主義」のトップとして大学改革と10兆円ファンドが位置づけられ、急速に計画が進行。2022年5月には国際卓越研究大学法案が正式に可決され、ファンドも運用が開始されるようになる。

【2】成長エンジンとしての「研究大学」への転換

 前述のような「成長戦略会議」によって規定される大学改革が意味するところとは、大学は教育と(普遍的な知のための)研究機関から、一国の経済成長のためのエンジンとしての研究機関へと転換されようとしているということ。国際卓越研究大学の資料を読んでいくと学部教育や文系についてほとんど言及がない。大学の一大改革であるから、当然これらは影響を受けるであろうにもかかわらず、計画段階ですらほとんど議論されてきていない。「経済成長に資さない学問はわざわざ国が関わる必要はない」文系学部廃止の議論などで国が用いた論理がここでも垣間見える。この制度の制定を中心となって進めてきた人々が考えていることについて、『世界と伍する研究大学専門調査会会長』を務めた上山隆大氏のインタビューから引用してみようと思う。

人への投資によって創造的な人材を輩出し、大学の知によって特許など無形資産中心の産業をけん引し、大学発スタートアップによって産業構造を転換する。研究大学はその要だ。

日本経済新聞 2022年5月3日

ここで大学に欠けているものとしてステークホルダーの多様性を挙げ、上山氏はこう続ける。

社会に目を向け企業、学生、卒業生、地域の支援機関などを意識した経営を考えるマインドセットが育たない。多くの意見が大学経営にはいるためにも資金源を多様にすべき。

日本経済新聞 2022年5月3日

 この「(多様な)ステークホルダー」という言葉は国立大の法人化以来、大学の自治の破壊と運営交付金削減のための方便として使われてきたということに注意する必要がある。多様なステークホルダーの中には当然大学の構成員や地域の人々も含まれるはずが、それらの声はむしろ無視され、政財界の人物が大学の運営ポストに就く方便として機能してきた面が少なくない。

 さて、上山氏は「大学の役割は産業構造転換をリードすること」だと言っているのですが、さらにこの立場を鮮明に打ち出している人物に山崎光悦(福島国際研究機構理事長)がいる。いくつか彼の発言を引用してみたい。

大学は、基本はキュリオシティ・ドリブン(好奇心の赴くままに進むことで自由な発想が得られる)の研究を推進するところだというのは古い。そんなので国はもう生きていけないところまで来ている。大学こそが国を救う最後の手段、砦である。

第11回大学研究力強化委員会(2023年5月10日)

たくさんある大学全部を護送船団方式で助けようなんて感覚はもうみんな捨てて議論しませんか?

第11回大学研究力強化委員会(2023年5月10日)

みんなで何かを一生懸命頑張って考えて大学改革しましょうというレベルはもう終わっている

第11回大学研究力強化委員会(2023年5月10日)

 彼らが言っていることは、大学を自由にのさばらせるな、税金を投入する以上国益にかなう研究をしろというメッセージにほかならない。上山はさらにインタビューで、大学の自律性がこの20年間で失われてきたことを認めながらも、自律性の回復のためには運営交付金の比率を下げ、さらなる競争環境に大学を置くことを求めている。国への資金的依存度が低ければ大学の自律性が高まるというのは言葉遊びでしかない。民間からの資金のほとんどは使途が決められており、大学が自由に使える予算はますます減る一方になることは明らかである。「高価な研究機材を買うお金はあっても、蛍光灯や机などの基礎備品を買うお金がない」などということも珍しい話ではないのだ。

ファンドで選ばれる大学は学部の規模を小さくして大学院の活動に特化し、学部教育をトップ研究大学以外の大学に譲るべき。

日本経済新聞 2022年5月3日

 上山氏はこのような発言までしているが、卓越大学がこのようなものになりうると認知している大学関係者がいったいどれだけいるだろうか?研究大学に特化するという姿勢は耳当たりこそいいものの、それで発生する歪みによる負の影響がどこに来るのか、それが引き起こしうる大きな問題を(特に文系学部にかんして)注意深く考える必要がある。

3.東北大学における問題について

大学改革と東北大

 全国の国立大学で生じている変化は、東北大学においても同じように影響を及ぼしている。特に東北大学で注目すべきは「総長の裁量拡大」「自主的な資金獲得への圧力」そしてなにより国際卓越研究大学についてだろう。

〇総長の権限

 東北大が1期6年と定める総長の任期を1回に限り再任(任期4年)できるよう、規程の改正を検討していた。しかし、「再任し継続すると 10 年任期となる。10 年という長期体制は、大学の民主的運営に対して障害となる。再任時の選考プロセスが不透明であり、構成員の意思が反映されない制度となる可能性が高い。」などと職組からの強い反対を受け、この方針は撤回された。しかし、各地の大学で進む総長への権限強化が東北大学でも実行されようとしている動きには我々は警戒していかなければならない。

 総長裁量経費とは、その名の通り総長の裁量によって使用することのできる経費であり、各大学では通常数億円程度の予算ではあるが、東北大学はこの7年間で上昇を続けており、2023年度には100億円に達した。この100億円という金額はちょうど全学生からの学費収入と同じであり、大学の予算全体の7%に達する。

 これだけの巨額の金額を総長の裁量によって運用できるというのは、学内の民主的運営という点から問題があるとして、東北大学職員組合は批判したほか、不透明な使途があるとしてこの総長裁量経費の使途について団体交渉で問い質した。また、この総長裁量経費を獲得するためにあらゆる部局による「総長参り」が常態化していることが指摘されている。

〇自主的な資金獲得への圧力

 国際卓越研究大学で「年間3%の事業成長」が求められていることに加え、運営交付金が年々減少しているために各大学はそれぞれの部局ごとに新たな財源の確保に乗り出している。そこには「稼げる大学法案」で想定されていたような企業との共同研究やスタートアップの設置だけでなく、アメリカの大学のような寄付による資金確保も目指されている。東北大学基金が中心となって、研究資金獲得のためのクラウドファンディングや卒寮生への寄付のよびかけ、部活・サークルへの寄付を東北大学基金を通じておこなうことが呼びかけられている。

 この寄付による運営・研究資金の獲得について、問題は各組織の維持に必要とされる資金までその組織が自分たちで獲得してくるべきだというような考え方が広がりかねないことだ。たとえば、東北大学植物園は植物標本庫の維持のために必要な資金をクラウドファンディングで集めている。このクラウドファンディングは成功しているし、日本の大学にアメリカのような寄付文化が根付くことは評価すべきことなのかもしれないが、大学の施設の運営に必要な資金が出なくなってしまうような流れに関してはきわめて強い警戒心をもたなければいけない。

補論 2024年において注目すべき項目

〇中教審報告

 中央教育審議会は今後の日本における教育のあり方について議論する文科省の諮問機関であり、ここでの議論は将来の教育政策を大きく左右する。我々は今後の大学改革の中での日就寮の存続を考える立場から、中教審における議論は必ず目を通していく必要がある。今回「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方に関する中間まとめ」として、とりわけ少子化問題と私立大学の定員問題、大学院の受け入れの柔軟化が中心的に取り上げられた。また、日就寮とは関係ないが、大学のカリキュラムや再編についても議論しており、大学院進学などを考える者にとっては必読だろう。

中教審は日本の研究力低下の原因をどう捉えているか

 中教審は日本の研究力低下が深刻であることを認め、10年間で大学教員の職務時間が1割強減少しており、「教育研究環境に専念することが困難となっているといった指摘もある」と述べた。しかし、これまで日就寮などが指摘してきたような基盤経費減少の問題については次のように述べるにとどまっている。「基盤的経費が 伸び悩んでいるこ とが日本の研究力低下の一因であるとの指摘がある一方で、近年では、基盤的経費としての運営費交付金等に加え多様で独創的な研究に継続的・発展的に取り組むため、科学研究費助成事業(科研費)等の競争的研究費を確保するとともに、新たな仕組みである世界最高水準の研究大学の実現に向けた「国際卓越研究大学制度」や、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学に対する、各大学の強みや特色を活かした取組の支援等を通じて大学の研究力の強化に取り組んでいる。」

法人化をどのように捉えているか(引用)

 中教審は法人化については以下のように述べるにとどまっている。

・ 法人化の結果、各大学において学長を中心とした機能的な運営が実現された、教育・学生支援の充実が図られたとの意見がある。 

・ 他方、平成 16(2004)年から一定期間、国立大学法人運営費交付金の減額が続いたことについては、法人化が企図した効果を減殺しているとの指摘 がある。

困窮学生への対策をどう考えているか

 文科省は困窮学生への援助の基本となる教育の機会均等について、中教審は以下の通りに回答し教育の機会均等を強調している。

・日本国憲法第 26 条第1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」ことを定め、国民に教育を受ける権利を保障している。この条項の精神を実現すべく、教育基本法第4条第3項 は「国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。」ことを規定し、教育の機会均等を実現するための国及び地方公共団体の責務を定めている。

 そして、高等教育へのアクセスを確保するために、給付奨学金などの制度を充実させてきたことをアピールした。しかし、今後の支援拡大については以下のように「情報提供」について述べるにとどまり、奨学金以外の支援については検討していないように思われる。

・高等教育の修学支援新制度など個人補助の形での高等教育全体への資金投入は急速に増加しており、経済的観点からのアクセスの確保は一定の進展をしているが、個人補助は対象者が制度の存在を知らなければ活用できないという特徴を有しており、対象拡大を踏まえた情報提供の在り方など、制度を継続的に実施していくための体制整備等にはなお課題もある。

 また、高等教育の受益者を学生本人に重点を置いて記述していることも問題である。学生寮をはじめとした、奨学金制度から零れ落ちる学生を現在の中教審は考慮していないため、今後は日就寮の存在意義をそこに見出していくべきではないだろうか。

・高等教育の受益者は学生等本人であると同時に、我が国の将来の社会、経済、文化の発展を支える人材育成という観点からは、社会全体が受益者である。加えて、高等教育での修学を経て、経済的に安定した生活を送ることができる者が増加することにより、将来の生活保護費や医療費、失業給付等の抑制が見込まれるといった社会全体に対する経済的な効果も期待できる。

〇国立大学協会声明について

 2024年6月7日に各大学の学長らで構成される国立大学協会は「我が国の輝ける未来のために」と題して声明を発表した。そこでは、基盤経費(運営交付金)の減額と物価高騰などによって実質的に予算が目減りし続けており、寄付などの拡大にも取り組んできたが、限界であることが示された。公的な声明で「しかし、もう限界です。」という一文が挿入されたことは大きな衝撃をもって受け止められた。国と一体となって大学改革を進めてきた各大学の学長らがこのような声明を出すことによって、国の大学政策を撤回させる転換点となることが期待できる。しかし、国に対して直接的に基盤経費の拡充を求めるのではなく、国民に対して財務状況改善への理解と協力を求める文言となっていることに注意が必要であり、学費値上げをはじめとして学生への負担増加を正当化するものとして利用されるおそれがある。

https://www.janu.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/202406_PresidentsComment.pdf